結論
「テンペスト」を音楽という切り口で検証し、当研究が引き出した結論はジョン・ロングの「シェイクスピアの音楽理論」に書かれている音楽の機能を当戯曲のサウンド・デザインの実践にあてはめることが可能であるということである。この研究は「テンペスト」を音楽的見地から検証したほんの第一歩にすぎないが、シェイクスピアが(1)ムードを盛り上げるため、(2)超自然性を際立たせるため、(3)抽象的なアイデアをシンボルにするために音楽を使用したことは明らかである。この三点はロングの理論をもとに、音楽的効果をつとめて視野に入れて、「テンペスト」を読んだ上で見えてきたものなので、当戯曲中で音楽が使われる全ての場面で、ロングの理論をもとに効果的なサウンド・デザインを構築していくことができるはずである。それぞれの例については当論文中で具体的に言及しているので、ここでは簡略に三つのシーンを挙げ、当理論展開を修了していく。第五幕のシーン1を例に取ると、使用される音楽はプロスペローの台詞とともに始まっている。
私の仕事は終わった
今こそ魔法の杖を折り
土の中深く埋めてしまおう
魔術の本ももはや必要ない(ギル77)
これは「テンペストの」クライマックスシーンで、プロスペローが自己の魔術の能力を捨て、敵であった裏切り者たちを許し、自分が祖国を追われ苦しい暮らしをしてきたことを水に流す場面である。このシーンで穏やかな音楽を使うことによって平和的なムードをよりいっそうなものとし、戯曲のハッピー・エンドを確実なものにできる。
超自然性をどのように作り上げるかという点においては、第1幕のシーン2にロングの理論が当てはまる。このシーンで登場するフェルディナンドは明らかに音楽によって超自然性があることを説明している。
これは人間の仕業ではない
人間の歌声でもない
(中略)
さっきまであそこから聞こえていたのに
今度は上のほうから聞こえてくる(ギル21)
これはフェルディナンドが目に見えないエリアルのつまびく音楽と歌に対してコメントしている。音楽が聞こえてくる方向を水平から垂直へ変えることによって、登場人物の超自然性を際立たせることができるので、役者と協力して効果的なサウンド・デザインを実践する格好のチャンスである。
(続く)