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Just Jpan 2001 3月号
 ≡ 1 ≡  * 1999年 冬 * ベルトコンベアーと逃避行

 2年前のある冬の日。
 どんより曇った空、頬を打つ北風、何もかもが灰色で、何もかもがもの悲しくて冷たい景色の中、私は浮ついた心を抑えつつ、スキップでもしそうな勢いで街へ向かっていた。

 その頃の私は、何しろ仕事が忙しくて、仕事を右から左に流し、終了を確認するや、また右から仕事が入ってきて私をせっつく、そんな生活を送っていた。
 ベルトコンベアー的生活。
 ベルトの真ん中で製品を組み立てている私は、無表情で機嫌が悪く、製品を念入りにチェックすることもなく、ただ仕上げて流すだけ。日々は無情に流れていき、いつが春だったのか夏だったのか、そんなことも忘れている。今は4月? 9月? 私の誕生日の7月はいつ過ぎてしまったのだろう。

 好きな映画も見なかった。ロードショウのCMを見て、「これはぜひ映画館に観に行かなくっちゃ」なんて思っても、しばらくしてアッと気づくと、とっくに上映は終了していた。
 大好きなTVゲームも、1年で1本もプレイせず、音楽好きを自称している私が、新譜もチェックしなかった。友達と交わしていたメールも、返事を書こう書こうと思っているうちに数ヶ月が過ぎ、仲の良い友人たちからは、筆無精ならぬメール無精を叱るメールまで届いた。
 健康には異常なかったが、記憶はすべて朦朧としたベールに包まれていた。時は淡々と過ぎ、ベルトコンベアーの中で無表情に作業をこなしていく私の横を、世紀末の年末が、転がるように過ぎていった。

 年末からの惰性で私は正月も仕事をし、クライアントの正月休みが明けるのに合わせて納品を済ませた。休み明けの1週間ほどは、あちこちのクライアントから納品の催促やら手直しやらが申し渡され、いつものことながら忙しく過ごした。
 ゴタゴタが一段落し、さあ、次はどれだ? と、ベルトコンベアーの右を覗くと、そこには、何も待っていなかった。
 「1週間後」、「1ヶ月後」というタグをつけた製品は残っていたが、「急を要す」、「締め切り過ぎ」というタグを付けた製品は、ひとつも無かった。

 ひとつも無い。
 あまりに突然のことで、私にはその実感がなかなか湧かなかった。

 時間に追われる日々の中で、ふいに時間が空いてしまうのは、それはそれで居心地が悪いものだ。手持ちぶさたで物足りない。
 最初の1日を、私は大掃除や洗濯、買い物にあてた。
 2日目は、ただゴロゴロとテレビを見て過ごした。
 3日目、「逃避行」を思いついた。

 そうだ、旅行でも行こう。
 まだ右に残っている製品は、どれもこれもリズム良くこなしていけばいいもので、旅行に行くだけの時間をとるのは難しいことじゃない。

 よし、決定。
 どこに行こう?
 思い立ったが吉日とばかりに、私は即行動を起こした。

 外へ出ると、北風が頬を強く叩いた。けれど、季節すら忘れてベルトコンベアーの中で暮らしてきた私には、そんな北風も心地良かった。
 「いつの間にか冬になってたんだな。寒い!」
 と、現実に馴染めない私は、コートのボタンを閉め、マフラーを巻き直し、ポケットに手を突っ込んで空を見上げた。空はどんよりと曇っていて、そこには紛れもない「冬」が居座っていた。

 さあ、と私は歩き出す。寒空の下でも、足取りはとても軽かった。今私は、確実に「自分の時間」を歩いている。北風と灰色の空は、イヤと言うほど「季節」を感じさせてくれた。
 私は寒さを楽しみながら、駅の旅行代理店へと向かった。

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